原価も人件費も上がる中で、飲食店が値上げを決める前に出しておく数字

グラフの資料とメガネ

こんにちは、タキです。
2012年に渋谷で12坪ほどの店を立ち上げ、のちに居抜きで売却しました。

僕が店をやっていた頃も、仕入れ値が上がるたびに「上げるか、我慢するか」で悩みました。ただ、当時の感覚と比べても、いまの上がり方は明らかに別物です。

値上げの記事は世の中にたくさんあるのですが、「勇気を持って値上げしよう」で終わっているものが多い。ここでは値上げを決める前に手元で出しておく数字と、上げたあとに何を見るかに絞って書きます。

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いま外食で起きていること

日本フードサービス協会の市場動向調査によると、2025年(令和7年)の1年間は、全体で売上107.3%、店舗数100.7%、客数102.9%、客単価104.3%(いずれも前年比)でした。売上を押し上げているのは客単価で、客数はほぼ横ばいという構図です。同じ資料には「消費者の節約志向もさらに強まっており」という記述もあります。

2026年6月度は、売上103.3%、店舗数101.5%、客数100.8%、客単価102.4%。伸びは1年前より鈍っています。業態別に見ると、ファミリーレストランの和風が客数94.7%、持ち帰り米飯・回転寿司が客数98.0%、パブ・居酒屋が売上99.1%・客数98.2%と、客数を落としているところもあります。

つまり、値上げ自体は業界全体でもう起きていて、その中で客数を維持できている業態とそうでない業態に分かれているということです。「値上げしていいのか」ではなく「どう上げるか」の段階に来ています。

人件費のほうは、令和8年度の地域別最低賃金の答申が全国加重平均で1,177円(改定前1,121円、引上げ額56円)。東京1,280円、神奈川1,279円、大阪1,231円、愛知1,195円。発効日は令和8年10月1日から12月2日にかけてで、都道府県によって違います。

値上げを決める前に出す3つの数字

①理論原価と実際原価のズレ

レシピから計算した理論原価率と、実際の原価率(仕入総額÷売上)の差です。ここが3〜5ポイント以上離れているなら、値上げより先に疑うところがあります。ロス、仕込みの歩留まり、まかない、棚卸の精度です。

差が出る原因は、たいてい廃棄・まかない・仕込みの歩留まり・棚卸の精度のどれかです。ここを放置したまま値上げすると、上げたぶんがそのまま同じ穴から抜けていきます。まずは1か月、棚卸をきちんとやってみてください。

出し方の手順はこうです。

1. 直近3か月の仕入総額と売上から、実際の原価率を出す
2. 売れ筋上位10品のレシピ原価を電卓で出す
3. それぞれの出数を掛けて、加重平均した理論原価率を出す
4. 1と3の差を見る

出数はPOSがあればすぐ出ますし、無くてもレジのジャーナルか伝票を1か月ぶん数えれば足ります。面倒ですが、ここを飛ばすと以降が全部あてずっぽうになります。

②最低賃金が上がると、月いくら増えるのか

計算は単純です。

週の総労働時間 × 引上げ額 × 4.3

アルバイトの合計が週100時間、引上げ額が56円の地域なら、100 × 56 × 4.3 = 約24,000円/月。年間で約29万円です。

すでに最低賃金より高く払っている店でも、下が上がれば全体を押し上げることになります。時給表を1枚作って全員分を並べてみてください。「新しい最低賃金+いくら」の状態になるかを一覧にすると、誰の時給から見直すかの順番が見えてきます。自分の都道府県の発効日は厚生労働省のページで確認できます。

③損益分岐点売上高

固定費 ÷ 粗利率(1−原価率)

家賃25万円、固定的にかかる人件費90万円、水道光熱費その他15万円で合計130万円、原価率30%の店なら、1,300,000 ÷ 0.7 = 約186万円。これが赤字にならない最低ラインです。

この数字を出しておくと「いくら足りないのか」が決まり、値上げ幅を逆算できます。月の不足が15万円で、月の客数が1,200人なら、1人あたり125円。

ここで注意したいのは、これは全品を125円上げるという意味ではなく、客単価を125円上げるという意味だということです。取り違えると確実に上げすぎます。

値上げ幅の決め方

全品一律は、いちばん雑なやり方

出数と粗利額(売価−原価)の組み合わせで4つに分けると、触る順番が見えてきます。

出数が多くて粗利額が小さい…最優先。10円20円でも全体に効く
出数が多くて粗利額が大きい…看板商品。触らないか、最後に小幅で
・出数が少なくて粗利額が大きい…据え置きでいい
・出数が少なくて粗利額が小さい…値上げより、メニューから外す候補

粗利「率」ではなく粗利「額」で見るのがポイントです。率が高くても1皿100円しか残らない品を10円上げるより、出数の多い品を20円上げたほうが効きます。

判断のチェックリスト

・その料理の値段を、常連さんが覚えているか(覚えられている定番ほど慎重に)
・近隣の同業と比べて、いまは高いのか安いのか。実際に何軒か食べに行って確かめる
・上げたぶん、盛りや器や提供の仕方で見え方を変えられるか
・仕入れ値の上昇は一時的なものか、戻らないものか
・ドリンクは比較的上げやすいが、ハイボールやレモンサワーの定番価格は客が覚えている
・ランチは上げにくい。夜の単価で回収できないか先に考える

税込の端数をどう置くか

総額表示なので、店頭の値札もメニューも税込で書きます。980円が1,080円になるように4桁に乗る瞬間は心理的な壁があるので、その手前で止めるか、いっそ内容を変えて別の商品として出すか。

僕は、100円上げて同じものを出すより、+50円で一品足したり量を変えたりするほうがいいと思っています。そのほうがスタッフもお客さんに説明しやすい。値段だけが動くと、どうしても前の値段と比較されます。

値上げより先にやれることの優先順位

1. ロスを潰す(廃棄、まかない、過剰な仕込み)
2. 売れない品をメニューから外す(在庫も仕込み時間も減る)
3. 仕入れ先を比較して、同じ品質で安い先を探す
4. 客単価を上げる(もう一品の提案、コース化、ドリンクの組み立て)
5. それでも足りなければ値上げ

1から4を先にやっておくと、必要な値上げ幅そのものを小さくできます。特に4は、値段を変えずに客単価が動くので、いちばん角が立たない。

そして、値上げに耐えられるかどうかは、結局その店にまた来たいと思ってくれるお客さんがどれだけいるかで決まります。値段より先に「来る理由」があるかどうか。ここが弱い店が値上げすると、そのまま客数に出ます。

伝え方で、ずいぶん変わる

・貼り紙は1枚で足りる。理由は一言(「食材と人件費の高騰のため」)。長い言い訳は逆効果
・2週間前には出す。黙って変えるのが一番まずい
・メニューブックの差し替え日を決めて、当日にレジ設定と同時に切り替える
スタッフに先に伝える。お客さんに聞かれて「知りません」と答えるのが最悪のパターン
・常連さんには、貼り紙とは別に口頭でひとこと

特に社員には、なぜ上げるのかと、いつから変わるのかを事前に共有しておいてください。ホールで矢面に立つのは店主ではなくスタッフです。社員が店の数字を理解しているかどうかで、値上げ後の空気はかなり変わります。

値上げ後、2〜4週間で見る数字

・客数(曜日をそろえて比較する。祝日や天候の悪い日を混ぜない)
・客単価
・値上げした品の出数
・原価率

やってはいけないのが、値上げと同時に他のことも変えてしまうことです。価格改定と一緒にメニュー構成や営業時間まで変えると、客数が動いたときに、原因が値段なのかそれ以外なのか切り分けられなくなります。変えるのは値段だけにして、結果を見てから次に進んでください。

もうひとつ、撤回の基準を先に決めておくこと。「この品だけ出数が3割落ちたら戻す」と決めておけば、感情や不安で判断しなくて済みます。全部戻す必要はなくて、1品だけ戻すという選択もあります。

2027年4月の税率と、総額表示の特例

2026年9月15日に閣議決定された大綱に基づいて、国税庁が「飲食料品に係る2年間の消費税率引下げ」の資料を公開しました。令和9年4月1日から令和11年3月31日までの2年間、飲食料品の消費税率を1%にする、という内容です。

ただし国税庁自身が「今後、法案が国会に提出され、審議を経た上で可決・成立した場合のもの」と明記しているので、まだ決定ではありません。そのうえで、値付けに関係するのは次の2点です。

ひとつは、店内飲食は対象外で10%のままだということ。テイクアウトや出前・宅配が1%の対象になるので、イートインと持ち帰りで税率差が9ポイントになります。本体価格をそのままにすると、持ち帰りの税込価格だけが大きく下がることになるので、両方やっている店は価格表の設計を考え直すことになります。

もうひとつが総額表示の特例です。Q&Aによれば、令和9年2月1日から3月31日までは引下げ後(1%)の税率で計算した価格を表示してよく、令和9年4月1日から5月31日までは引下げ前(8%)の価格を表示してよい、という形の特例が予定されています。引下げが終わる時期にも同様の特例が置かれます。いずれも「直ちに対応することが困難な事情」があり、誤認防止の措置をとることが条件です。

なお、この特例があっても税抜価格だけの表示や「+税」という表示は認められません。値札の作り直しがいつ必要になるかというスケジュールの問題なので、レジやPOSの対応予定とあわせて確認しておくところです。制度まわりはインボイスと電子帳簿保存法の記事にまとめました。

まとめ

値上げは「する・しない」の決断ではなく、数字を出して、幅を決めて、伝えて、あとで確認する作業です。

やることを並べると、実際の原価率と理論原価率を比べる、人件費の増加分を計算する、損益分岐点を出す、上げる品を選ぶ、2週間前に告知する、2〜4週間後に客数と客単価を見る。この6つだけです。

全部やっても1日はかかりません。逆に、ここを飛ばして雰囲気で上げた値段は、客数が落ちたときに戻すか続けるかの判断ができなくなります。

参考にした資料

日本フードサービス協会「外食産業市場動向調査」
厚生労働省「令和8年度最低賃金額答申」
厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」
国税庁「消費税率引下げ特設サイト」

この記事は2026年9月16日時点で公開されている情報をもとに書いています。統計の数値は各調査の公表値、税制については国税庁の公表資料によります。